ヨーロッパの戦車保有台数が致命的に少ない ウクライナへの供与でさらに保有数が低下 戦いに勝つには数が大事

報道記事:ウクライナ戦争のカギを握る戦車、世界的には廃棄が進む“絶滅危惧種”だった

戦車が「地上戦の花形」と言われた時代の各国保有数

「早く西側戦車を」と懇願するウクライナ・ゼレンスキー大統領の粘り勝ちだったのか──。2023年1月、及び腰だったNATO(北大西洋条約機構)の主要国、米・英・独3カ国は、最強クラスの現用主力戦車(MBT)をウクライナに供与すると決意した。

 提供するのは「M1エイブラムス」(米)、「チャレンジャー2」(英)、「レオパルト2」(レオ2/独)の“西側MBT三羽烏”。3車種が同じ戦場で顔を合わせることになれば恐らく史上初で、ロシアのプーチン大統領が「NATOが参戦した」と過剰反応しそうなほどのインパクトがあるだろう。

 ウクライナ戦争で地上戦のカギを握る主軸兵器としてロシア・ウクライナ双方がMBTを繰り出した結果、いまや台数が不足気味の状態にある。だが、MBTは「地上戦の花形」と言われながらも、冷戦終結後は欧米を中心に無用論が大勢を占め、数年前まではリストラ対象の筆頭で、「絶滅危惧種」と言っても過言ではない状態にあったのだ。

 少なくとも1989年の冷戦終結まで東西両陣営は欧州大陸を舞台に強大な軍事力で対峙し、その主役がMBTだった。

 英国のシンクタンク国際戦略研究所(IISS)が公表している『ミリタリー・バランス1990年版』で1989年のMBT数を調べてみると、NATOは総計約3万4000台。主要国別では、アメリカの約1万5400台が圧倒的で、西ドイツ約5000台、フランス約1300台、イギリス約1300台、イタリア約1500台、ギリシャ約2000台、オランダ約900台、トルコ約3700台など、軒並み1000台規模だった。

 いま話題のM1やレオ2の割合に目をやると、アメリカはM1が約6400台で3台に1台、西ドイツはレオ2が約2000台、同じくオランダは450台でどちらもほぼ2台に1台の割合だった。

 対するソ連を中心としたワルシャワ条約機構(WTO)のMBTは圧倒的で、約7万9000台とNATOの2倍に達し、西側は当時“赤い津波”と恐れた。

 だが冷戦終結でMBTは鉄の塊の“お荷物”となり、各国とも処理に血道を上げた。

 最新の『ミリタリー・バランス』(2022年版)でMBT数を調べると、NATO全体では約1万2000台で1989年の半数以下の状況になっている。冷戦終結後NATOがポーランドやチェコなど旧ソ連側にいた東欧諸国の大半を自陣営に組み込んだにもかかわらず、MBTはすさまじい勢いで廃棄され台数を減らしていることがうかがえる。

 主要国別ではアメリカが約2600台(別に保管中が約3600台)と6分の1に減らし、独仏英も200台規模に落とした。このほかトルコ約2400台、ギリシャ約1200台、イタリア150台と続き、かつて「MBTの重さで低湿地の国土が沈む」と揶揄されたオランダはMBTを全廃、つまり「ゼロ」とするなど劇的だ。日本のMBT数は現在約600台なので、かつて「戦車王国」を謳歌した欧州の主要国は、いまや日本の半分以下という状況にある。

 ちなみに経済規模が小さいトルコとギリシャのMBT保有数が現在も多い理由は、NATO加盟国同士にも関わらず、両者は歴史的に敵対関係にあり、多数の戦車を備えているから。このためNATO内でのMBT保有数ランキングは、1位アメリカ、2位トルコ、3位ギリシャ、4位ポーランド(約800台)と、一般的に予想される顔ぶれとはだいぶ異なっている。

 一方のロシアもかなり減らして現用は約3400台で、別に1万200台が保管中と推測される。車種別では一世代前の「T-72」系が約2400台で大半を占め、次いで比較的新しい「T-80」系が約600台、新型の「T-90」系は約400台に過ぎないと見られる。保管中のMBTのうち1万台がT-72だという。
  以下省略

JBpress

【コメント】
記事によると冷戦が終わった90年代以降、世界は戦車保有台数を劇的に減らしている。ドイツ、フランス、イギリスは200台、イタリアは150台、オランダにいたっては0台とこのとだ。これは保有数であって、実際に稼働できる戦車となるともっと少なくなる。

このような状態で、ヨーロッパ諸国はウクライナに戦車を供与しているのだ。ドイツの供与数は14台と少ないと思っていたが、そもそも保有台数が少ないなら納得もいく。保有台数が少ないということは、それを操縦する兵員も少ないということになる。なんとも心もとない。

例えば、ドイツがウクライナのように複数の戦線で敵国に攻められた場合、戦車はほとんど役に立たないのではないだろうか?保有数が200台程度なら、稼働数は100台程度かもしれない。5か所から攻められれば20台づつしか割り当てることができない。それぞれの戦線で数台が破壊されてしまえば、戦車部隊は消滅してしまいそうなくらいだ。

かつての第二次世界大戦でドイツとロシアは、数百台、数千台ずつの戦車戦を何度も繰り広げた。消耗も激しいが、それを穴埋めすべく大量の戦車を生産し、兵士も訓練した。ドイツは約37000台、ソ連は約8万台も生産していた。戦争が終わっても冷戦時代はそれなりの規模を維持してきている。

ところが、今日まで戦車の製造はどんどん減らしてきたので、生産設備も戦車工場での労働者も少ないと思われる。戦車工場を拡大するにはそれこそ数年どころではないだろう。戦車の部品工場も作らなければならないし、生産組織、体制も作らないといけない。

現在は戦車戦はあまり想定できなかったのかもしれない。ウクライナが戦車を求めていることから、陸上戦において戦車が必要なのは間違いと思われる。ロシアがウクライナを占領し、ヨーロッパに戦いを仕掛けることがあれば、地上戦において各国が戦えるようには思えない。ロシアにそこまでの力はないだろうが、ヨーロッパはもっと貧弱だ。ロシアがポーランドに攻め込んだ場合、ドイツは戦車を提供できないだろう。出してしまえば自国の防衛ができない。ロシアからすると、1カ国ずつ各個撃破ができてしまう。

とはいえ、ロシアが有利なわけではない。アメリカの支援があるからだ。アメリカが強いのは性能の高い兵器があるからだけではない。物量があるからだ。戦いは数なのだ。

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